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賃貸借契約とは?オーナーが知るべき基礎知識をわかりやすく解説

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賃貸借契約は、賃貸経営の土台となる重要な契約です。内容を十分に理解しないまま契約を進めると、退去時の原状回復費用や更新条件、解約の可否などをめぐって判断に迷い、思わぬトラブルにつながることがあります。

この記事では、賃貸借契約の基本的な定義から、普通借家契約と定期借家契約の違い、契約締結までの流れ、契約書で特に確認すべきポイントまでを、オーナー目線でわかりやすく解説します。2020年の民法改正で実務に影響が出た点についても整理しています。

読み終えるころには、管理会社や入居者と条件を確認する際に、何を基準に判断すべきかが明確になり、安心して賃貸経営を進められるようになるはずです。

 

この記事でわかること

この記事では、「賃貸借契約とは何か」をわかりやすく整理したうえで、不動産オーナーが実務で押さえておきたいポイントを体系的に解説します。

賃貸借契約の定義と民法・借地借家法の関係、使用貸借契約との違い、普通借家契約と定期借家契約それぞれの特徴と選び方、入居申込みから契約締結・入居までの流れを順を追って確認します。

あわせて、契約書で特に重要となる契約期間、賃料、敷金、解約条件、原状回復の考え方や、2020年の民法改正による実務上の注意点についても解説します。

 

賃貸借契約とは

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賃貸借契約とは、物件の貸し借りに関する基本的な約束事を定めた契約です。オーナーと入居者の権利義務を明確にすることで、双方にとって安心できる賃貸関係を構築できます。

ここでは、賃貸借契約の法的な位置づけや関連する法律について解説します。民法と借地借家法の関係性を理解することで、契約内容をより深く把握できるようになります。また、無償で物件を貸し出す使用貸借契約との違いについても説明し、賃貸借契約の特徴を明確にします。

賃貸借契約の定義と法的根拠

賃貸借契約とは、当事者の一方がある物の使用および収益を相手方にさせることを約束し、相手方がこれに対して賃料を支払うことを約束する契約です。この定義は民法第601条に規定されています。つまり、オーナーが物件を貸し、入居者が賃料を支払うという関係が賃貸借契約の基本となります。

賃貸借契約が成立するためには、貸主と借主の合意があれば足ります。法律上は書面がなくても契約は成立しますが、実務上はトラブル防止のため書面で契約を締結するのが一般的です。国土交通省が公表している「賃貸住宅標準契約書」は、多くの不動産会社で契約書のひな形として活用されています。

賃貸借契約には、建物の賃貸借と土地の賃貸借があります。アパートやマンションなどの居住用物件、事務所や店舗などの事業用物件の貸し借りが建物賃貸借にあたります。一方、駐車場や資材置き場として土地を貸す場合は土地賃貸借となります。この記事では主に建物賃貸借を中心に解説していきます。

賃貸借契約において、オーナーには物件を使用させる義務があり、入居者には賃料を支払う義務があります。このほかにも、オーナーには修繕義務が、入居者には善管注意義務(善良な管理者としての注意を払う義務)があるなど、それぞれの立場に応じた権利と義務が発生します。

民法と借地借家法の関係

賃貸借契約を規律する法律として、民法と借地借家法の2つがあります。民法は契約に関する一般的なルールを定めた法律であり、賃貸借契約の基本的な枠組みを規定しています。一方、借地借家法は建物や土地の賃貸借について、民法の特則として借主を保護するための規定を設けた法律です。

借地借家法が制定された背景には、借主保護の必要性があります。住居は生活の基盤であり、貸主の都合で簡単に退去を求められると借主は大きな不利益を被ります。そのため、借地借家法では正当事由がなければ貸主からの解約申入れや更新拒絶ができないなど、借主に有利な規定が設けられています。

民法と借地借家法の規定が異なる場合、借地借家法が優先して適用されます。これを「特別法は一般法に優先する」といいます。例えば、民法では賃貸借の期間について上限を50年と定めていますが、借地借家法では建物賃貸借について1年未満の期間を定めた場合は期間の定めがないものとみなすという規定があります。

オーナーとして重要なのは、借地借家法の規定のうち強行規定と呼ばれるものは契約で変更できないという点です。借主に不利となる特約は無効となるため、契約書を作成する際には法律の規定を十分に理解しておく必要があります。

使用貸借契約との違い

使用貸借契約とは、無償で物を貸し借りする契約のことです。賃貸借契約との最大の違いは対価の有無にあります。賃貸借契約では借主が賃料を支払いますが、使用貸借契約では借主は対価を支払いません。親族間で物件を貸すケースなどで使用貸借が選択されることがあります。

使用貸借契約には借地借家法が適用されません。そのため、使用貸借の借主は賃貸借の借主と比べて法的な保護が弱くなります。例えば、賃貸借契約では正当事由がなければ貸主からの解約が認められませんが、使用貸借契約ではそのような制限がありません。

税務上も両者は異なる取り扱いを受けます。親族間で相場よりも著しく低い賃料で物件を貸した場合、使用貸借とみなされることがあります。この場合、借主に贈与税が課税される可能性があるため注意が必要です。適正な賃料を設定することで、このようなリスクを避けることができます。

不動産オーナーとしては、親族や知人に物件を貸す場合でも、きちんと賃料を受け取って賃貸借契約を締結することをお勧めします。これにより、借地借家法に基づく明確なルールのもとで貸借関係を維持でき、将来的なトラブルを防ぐことができます。

 

賃貸借契約の種類

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建物賃貸借契約には、大きく分けて普通借家契約と定期借家契約の2種類があります。それぞれ契約期間や更新の有無、解約条件などが異なります。

どちらの契約形態を選ぶかによって、オーナーと入居者双方の権利義務が変わってきます。物件の運用方針や将来の計画に応じて適切な契約形態を選択することが、安定した賃貸経営につながります。ここでは、それぞれの特徴と選び方のポイントを解説します。

普通借家契約の特徴

普通借家契約は、現在の賃貸市場で最も一般的に使用されている契約形態です。契約期間は1年以上で設定されることが多く、2年間とするのが最も一般的です。国土交通省の調査によると、居住用の賃貸住宅では、普通借家契約が一般的に用いられています。

普通借家契約の最大の特徴は、契約期間が満了しても自動的に更新されることです。借主が更新を希望する場合、オーナーは正当事由がなければ更新を拒絶することができません。正当事由とは、オーナー自身がその物件を使用する必要がある場合や、建物の老朽化により取り壊しが必要な場合などを指します。

この仕組みは借主にとっては安定した居住を確保できるメリットがありますが、オーナーにとっては物件を自由に活用しにくいというデメリットがあります。例えば、将来的に物件を売却したい、建て替えを検討しているといった場合でも、入居者がいる限り簡単には退去を求められません。

普通借家契約では、更新時に更新料を請求することが一般的です。更新料の金額は地域によって慣行が異なりますが、賃料の1〜2か月分とするケースが多いです。ただし、更新料の支払いについては契約書に明記しておく必要があり、記載がなければ請求できない可能性があります。

定期借家契約の特徴

定期借家契約は、2000年3月に施行された借地借家法の改正により創設された契約形態です。契約で定めた期間が満了すると、更新されることなく契約が終了するのが最大の特徴です。オーナーにとっては物件の活用の自由度が高まるメリットがあります。

定期借家契約を締結するためには、いくつかの要件を満たす必要があります。まず、契約書を公正証書等の書面で作成しなければなりません。また、契約締結前に「この契約は更新がなく、期間満了により終了する」旨を記載した書面を借主に交付して説明する義務があります。この手続きを怠ると、定期借家契約ではなく普通借家契約とみなされてしまいます。

定期借家契約の契約期間には上限がなく、1年未満でも設定可能です。ただし、1年以上の契約期間を定めた場合、期間満了の1年前から6か月前までの間に借主に対して終了通知を行う必要があります。この通知を怠ると、契約終了を借主に対抗できなくなります。

借主にとっては契約期間中の居住が保障されるものの、期間満了時には退去しなければならないという不安があります。そのため、定期借家契約は普通借家契約と比べて入居者を集めにくい傾向があり、賃料を低めに設定するケースも見られます。

普通借家と定期借家の比較

普通借家契約と定期借家契約は、契約の更新と解約の点で大きく異なります。普通借家契約では契約が自動更新されますが、定期借家契約では更新がなく期間満了で終了します。オーナーにとっては、定期借家契約の方が物件の活用計画を立てやすいというメリットがあります。

入居者募集のしやすさという観点では、普通借家契約の方が有利です。入居者は長期間安心して住み続けられる普通借家契約を好む傾向があります。定期借家契約では、期間満了後の住居探しが必要になるため、敬遠されることもあります。そのため、定期借家契約では賃料を相場より5〜10%程度低く設定するケースも見られます。

オーナーからの中途解約については、どちらの契約形態でも原則として認められません。一方、借主からの中途解約については違いがあります。普通借家契約では通常、1〜2か月前の予告で解約できる特約を設けることが一般的です。定期借家契約では、床面積200平方メートル未満の居住用建物に限り、転勤や親族の介護など、やむを得ない事情がある場合に借主からの中途解約が認められています。

どちらの契約形態を選ぶかは、物件の将来計画によって判断すべきです。長期的に安定した賃貸経営を目指すなら普通借家契約が適しています。建て替えや売却の予定がある場合や、転勤者向けの短期賃貸を想定する場合は定期借家契約が有効です。物件ごとの特性と市場ニーズを考慮して選択することが重要です。

 

賃貸借契約の流れ

賃貸借契約は、入居申込みから鍵の引き渡しまで、いくつかの段階を経て締結されます。オーナーとして各段階で何が行われるかを把握しておくことが大切です。

契約手続きの多くは管理会社や不動産会社が代行してくれますが、最終的な判断はオーナー自身が行う必要があります。ここでは、契約締結までの流れを順を追って解説し、各段階で注意すべきポイントをお伝えします。

入居申込みと審査

入居希望者が物件を気に入ると、入居申込書を提出します。申込書には、氏名、住所、連絡先、勤務先、年収、同居人の情報などが記載されます。また、連帯保証人を立てる場合は保証人の情報も併せて提出されます。この情報をもとに、入居審査が行われます。

入居審査では、家賃の支払い能力と入居者としての適格性を確認します。一般的に、月収が家賃の3倍以上あることが目安とされています。勤務先の安定性や勤続年数も考慮されます。また、過去の家賃滞納歴や信用情報をチェックすることもあります。保証会社を利用する場合は、保証会社による審査も並行して行われます。

オーナーが自主管理を行っている場合は、オーナー自身が審査を行うことになります。管理会社に委託している場合は、管理会社が一次審査を行い、その結果をオーナーに報告して最終判断を仰ぐのが一般的です。審査基準を明確にしておくことで、スムーズに判断できるようになります。

審査に通過すると、契約手続きへと進みます。審査結果は通常3日から1週間程度で出ます。入居希望者の都合や、繁忙期には時間がかかることもあります。審査結果は速やかに入居希望者に伝え、必要書類の準備を依頼することで、契約までの流れをスムーズに進めることができます。

重要事項説明

契約締結前に、宅地建物取引士による重要事項説明が行われます。これは宅地建物取引業法で定められた義務であり、省略することはできません。重要事項説明では、物件の概要、設備、契約条件、周辺環境などについて、書面を交付しながら説明が行われます。

重要事項説明書には、物件の所在地、構造、面積、設備の状況、法令上の制限、敷金・礼金の額、賃料の支払方法、解約条件などが記載されます。入居者はこの説明を受けて契約内容を十分に理解したうえで、契約締結の判断をします。説明内容に疑問があれば、この段階で確認することが大切です。

オーナーは通常、重要事項説明の場には同席しません。管理会社や仲介会社の宅地建物取引士が説明を行います。ただし、重要事項説明書の内容はオーナーにも関係するため、事前に内容を確認しておくことをお勧めします。特に特約事項や禁止事項については、オーナーの意向が反映されているか確認が必要です。

近年では、オンラインでの重要事項説明(IT重説)も認められるようになりました。2017年に賃貸取引について解禁され、2021年からは売買取引でも可能となっています。オンラインでの説明を希望する入居者も増えているため、管理会社がIT重説に対応しているか確認しておくとよいでしょう。

契約締結と必要書類

重要事項説明を受けた後、賃貸借契約書に署名捺印して契約が締結されます。契約書は2通作成し、オーナーと入居者がそれぞれ1通ずつ保管するのが一般的です。契約書の内容は重要事項説明書と重複する部分も多いですが、より詳細な契約条件が記載されています。

入居者が準備する書類として、一般的に住民票、収入証明書(源泉徴収票や確定申告書など)、本人確認書類(運転免許証やパスポートなど)、印鑑証明書などがあります。連帯保証人を立てる場合は、保証人の住民票、印鑑証明書、収入証明書なども必要になります。保証会社を利用する場合は、保証会社所定の申込書類が追加されます。

契約締結時には、敷金、礼金、前家賃、仲介手数料、火災保険料などの初期費用が支払われます。これらの金額は契約書や重要事項説明書に記載されているものと一致している必要があります。入金を確認してから鍵の引き渡しを行うのが一般的な流れです。

オーナー側が準備する書類としては、登記事項証明書(登記簿謄本)があります。これは物件の所有者を確認するために必要です。管理会社に委託している場合は、管理会社が必要書類の準備や確認を代行してくれます。契約書類は重要な書類であるため、オーナー自身もコピーを保管しておくことをお勧めします。

鍵の引き渡しと入居

契約が締結され、初期費用の入金が確認できたら、鍵の引き渡しを行います。鍵の引き渡し日は通常、契約開始日(入居日)と同日かそれより前に設定されます。引き渡し時には、鍵の本数を確認し、受領書にサインをもらうのが一般的です。

入居前または入居時に、物件の状態を確認するための立会いを行うことがあります。これは入居時チェックリストなどを使って、壁や床のキズ、設備の動作状況などを記録するものです。退去時の原状回復トラブルを防ぐために重要な手続きであり、写真を撮影して証拠として残しておくことをお勧めします。

入居後は、入居者からの設備に関する問い合わせや不具合の報告に対応する必要があります。入居直後は特に設備の不具合が発覚しやすい時期です。速やかに対応することで、入居者との良好な関係を構築することができます。管理会社に委託している場合は、管理会社が窓口となって対応します。

鍵の引き渡しをもって、賃貸借契約に基づく物件の使用が開始されます。オーナーとしては、入居者が快適に生活できるよう適切な管理を行うことが求められます。入居者とのコミュニケーションを大切にし、トラブルを未然に防ぐ姿勢が長期的な賃貸経営の成功につながります。

 

賃貸借契約書のチェックポイント

賃貸借契約書は、オーナーと入居者の権利義務を定めた重要な書類です。契約書の内容を十分に理解していないと、後々トラブルになる可能性があります。

契約書には多くの条項が含まれていますが、特に確認すべきポイントがあります。ここでは、オーナーとして特に注意して確認すべき項目について、順を追って解説します。不明点があれば、契約締結前に管理会社や専門家に相談することをお勧めします。

契約期間と更新条件

契約期間は、賃貸借関係がいつからいつまで続くかを定めたものです。普通借家契約では通常2年間とすることが多いですが、1年以上であれば自由に設定できます。1年未満の期間を定めた場合、借地借家法により期間の定めがないものとみなされるため注意が必要です。

更新条件については、普通借家契約と定期借家契約で大きく異なります。普通借家契約では、期間満了の1年前から6か月前までに更新拒絶の通知をしなければ、同一条件で契約が更新されたものとみなされます。ただし、オーナーからの更新拒絶には正当事由が必要です。

更新料の有無と金額も確認しておくべきポイントです。更新料は法律で定められた義務ではなく、契約で定めることによって請求できるものです。一般的には賃料の1か月分程度とすることが多いですが、地域によって慣行が異なります。契約書に更新料の記載がなければ、更新時に請求することは難しくなります。

定期借家契約の場合は、契約期間満了により契約が終了します。ただし、双方が合意すれば再契約を結ぶことは可能です。再契約を行う場合でも、改めて書面による契約と事前説明が必要となります。この手続きを簡略化すると、普通借家契約とみなされるリスクがあるため注意してください。

賃料・共益費・敷金の取り決め

賃料は毎月支払われる物件の使用対価であり、契約書に金額と支払期日を明記します。通常は翌月分を当月末日までに支払う形式が多いですが、当月分を当月初めに支払う形式もあります。支払方法は銀行振込が一般的ですが、口座引き落としを採用するケースも増えています。

共益費(管理費)は、建物の共用部分の維持管理に充てる費用です。エレベーターや廊下の清掃、共用部分の水道光熱費などが含まれます。賃料とは別に設定されることが多いですが、賃料に含めて「共益費込み」とするケースもあります。共益費の金額と使途を明確にしておくことで、入居者との認識のずれを防げます。

敷金は、賃料の滞納や原状回復費用に備えて入居者から預かるお金です。地域によって「保証金」と呼ばれることもあります。敷金の額は賃料の1〜2か月分が一般的ですが、地域や物件によって異なります。2020年の民法改正により、敷金に関する基本ルールが明文化されました。

礼金は、契約締結時にオーナーに対して支払われる謝礼的な金銭です。敷金と異なり、退去時に返還されません。近年は礼金なしの物件も増えていますが、設定するかどうかはオーナーの判断に委ねられています。賃料、共益費、敷金、礼金の金額は、近隣相場や物件の条件を考慮して適切に設定することが重要です。

解約時の条件と手続き

入居者からの解約については、契約書で予告期間を定めるのが一般的です。通常は1か月前または2か月前の予告を求めることが多いです。予告期間を設けることで、オーナーは次の入居者を募集する時間を確保できます。予告なしに退去された場合の違約金についても定めておくとよいでしょう。

オーナーからの解約については、普通借家契約の場合は正当事由が必要であり、簡単には認められません。契約書に解約条項を設けていても、正当事由がなければ解約は無効となります。定期借家契約の場合は、期間満了の1年前から6か月前までに終了通知を行うことで、契約期間満了時に終了できます。

中途解約違約金についても確認しておく必要があります。入居者が予告期間を守らずに退去した場合や、契約期間の途中で解約した場合の違約金を定めることがあります。ただし、消費者契約法により、過大な違約金は無効とされる可能性があるため、合理的な範囲で設定することが求められます。

解約手続きの流れとして、入居者からの解約通知の受領、退去立会い日の調整、退去時の現状確認、原状回復費用の精算、敷金の返還という順序が一般的です。これらの手続きがスムーズに進むよう、契約書に手続きの詳細を明記しておくことが大切です。

原状回復の範囲と負担

原状回復とは、入居者が退去する際に物件を入居時の状態に戻すことを指します。ただし、通常の使用による損耗(経年劣化や通常損耗)については、オーナーが負担するのが原則です。入居者が負担するのは、故意・過失による損傷や、通常の使用を超える使用による損耗に限られます。

国土交通省が策定した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、原状回復の負担区分について詳細な基準を示しています。例えば、壁紙の日焼けによる変色や、家具を置いたことによる床のへこみは通常損耗としてオーナー負担とされています。一方、タバコのヤニによる壁紙の変色や、引っ越し作業で付けたキズは入居者負担とされています。

原状回復の範囲と費用負担について、契約書に特約を設けることも可能です。ただし、2020年の民法改正により、通常損耗についても入居者に負担させる特約は、その旨を明確に説明し、入居者が認識したうえで合意していなければ無効となる可能性が高くなりました。特約を設ける場合は、具体的な内容を明示する必要があります。

トラブルを防ぐためには、入居時に物件の状態を写真等で記録しておくことが有効です。退去時に入居者と立会いを行い、損耗の状態を確認します。費用負担について双方が納得したうえで精算することで、円満な契約終了につながります。

禁止事項と特約

禁止事項は、入居者に禁止される行為を定めたものです。一般的な禁止事項として、ペットの飼育、楽器の演奏、無断転貸、危険物の持ち込み、共用部分への私物放置などがあります。禁止事項を明確にしておくことで、他の入居者への迷惑行為や建物の損傷を防ぐことができます。

禁止事項に違反した場合の対応についても、契約書に定めておくことが重要です。警告を行っても改善されない場合は契約解除の対象となる旨を記載しておくことで、実際に違反があった際にスムーズに対処できます。ただし、軽微な違反で即座に契約解除することは認められないケースもあるため、段階的な対応を想定しておくとよいでしょう。

特約は、標準的な契約条項に追加して定める特別な条件です。例えば、退去時のクリーニング費用を入居者負担とする特約や、更新料に関する特約などがあります。特約を設ける場合は、入居者に対して内容を十分に説明し、理解を得たうえで合意する必要があります。

特約の内容によっては、消費者契約法や借地借家法により無効とされる場合があります。借主に一方的に不利な特約は認められないことが多いです。特約を設ける際は、法的に有効かどうかを確認することが大切です。不明な点があれば、管理会社や弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

 

賃貸借契約でよくあるトラブルと対処法

賃貸借契約では、様々なトラブルが発生する可能性があります。特に多いのは、退去時の原状回復費用や敷金精算に関するトラブルです。

トラブルを未然に防ぐためには、契約時に明確なルールを定め、入居者との認識を合わせておくことが重要です。ここでは、よくあるトラブルの事例と対処法、そして2020年の民法改正がもたらした影響について解説します。

原状回復費用をめぐるトラブル

原状回復費用に関するトラブルは、賃貸借契約において最も多いトラブルの一つです。国民生活センターに寄せられる相談のうち、賃貸住宅に関するものは毎年3万件を超え、その多くが原状回復費用や敷金精算に関するものとなっています。オーナーと入居者の認識の違いが主な原因です。

トラブルの典型例として、オーナーが通常損耗まで入居者に負担させようとするケースがあります。例えば、長年住んだことによる壁紙の黄ばみや畳の日焼けは通常損耗であり、本来オーナーが負担すべきものです。しかし、契約書に「退去時は入居時の状態に戻すこと」と記載されていたために、入居者に請求してしまうことがあります。

対処法としては、まず国土交通省のガイドラインに基づいた負担区分を理解することが大切です。ガイドラインでは、損耗の原因と経過年数を考慮した負担割合の計算方法も示されています。例えば、壁紙の耐用年数は6年とされており、入居から6年経過していれば、入居者の過失による損傷でも入居者負担は少なくなります。

入居時の物件の状態を写真や書面で記録しておくことも重要です。退去時の状態と比較することで、どの損傷が入居後に発生したものかを客観的に判断できます。また、退去立会いの際には入居者と一緒に確認を行い、費用負担について双方が納得するまで話し合うことがトラブル防止につながります。

敷金精算のトラブル

敷金精算のトラブルは、敷金の返還額をめぐって発生します。入居者は敷金の全額返還を期待することが多い一方、オーナーは原状回復費用を控除して返還することが一般的です。この認識の違いがトラブルの原因となります。

敷金から控除できる費用は、入居者の故意・過失による損傷の修繕費用、未払い賃料、その他契約で定めた費用に限られます。通常損耗の修繕費用を敷金から控除することは、原則として認められません。ただし、通常損耗についても入居者負担とする特約が有効に成立している場合は、控除できる可能性があります。

トラブルを防ぐためには、敷金から控除する費用の内訳を明確にすることが重要です。退去後速やかに見積もりを取り、具体的な費用を入居者に提示します。費用の根拠を示すことで、入居者の納得を得やすくなります。高額な費用を請求する場合は、複数の業者から見積もりを取ることで、費用の妥当性を示すことができます。

2020年の民法改正により、敷金に関する基本ルールが明文化されました。敷金は賃貸借契約が終了し、かつ物件が明け渡された後に返還義務が生じます。返還額は、預かった敷金から、入居者が負担すべき金銭債務を控除した残額となります。このルールを踏まえて適切に精算を行うことが大切です。

2020年民法改正の影響

2020年4月に施行された民法改正は、賃貸借契約に大きな影響を与えました。約120年ぶりの大改正であり、これまで判例や慣行によって運用されてきたルールの多くが明文化されました。オーナーはこれらの変更点を理解しておく必要があります。

敷金に関しては、前述のとおり返還ルールが明文化されました。加えて、個人の連帯保証人を立てる場合は、極度額(保証の上限額)を定めなければ保証契約が無効になるというルールが新設されました。極度額を定めていない契約書は無効となるため、契約書の見直しが必要です。

原状回復についても、民法改正により「通常の使用及び収益によって生じた損耗並びに経年変化」は借主が原状回復義務を負わないことが明文化されました。これにより、通常損耗について入居者に負担させる特約の有効性は、従来よりも厳しく判断されるようになりました。特約を設ける場合は、具体的な内容を明示し、入居者の認識と合意を確認することが一層重要になっています。

また、賃借物の一部滅失等により使用収益できなくなった場合、その割合に応じて賃料が当然に減額されるというルールも明文化されました。例えば、設備の故障により使用できない期間が生じた場合、その間の賃料を減額する必要があるということです。このルールを踏まえ、設備故障への迅速な対応がより一層求められるようになりました。

 

管理会社との賃貸借契約の関係

賃貸経営において、管理会社は重要なパートナーです。管理会社と締結する管理委託契約と、入居者と締結する賃貸借契約は別の契約ですが、密接に関連しています。

管理会社を適切に選び、良好な関係を構築することで、賃貸経営の負担を軽減できます。ここでは、管理委託契約と賃貸借契約の違い、管理会社選びのポイントについて解説します。

管理委託契約と賃貸借契約の違い

管理委託契約は、オーナーと管理会社の間で締結される契約です。物件の管理業務を管理会社に委託することを内容としています。一方、賃貸借契約はオーナー(または管理会社)と入居者の間で締結される契約であり、物件の使用と賃料の支払いを内容としています。両者は当事者も内容も異なる別の契約です。

管理委託契約には、大きく分けて「管理代行型」と「サブリース型」があります。管理代行型は、オーナーが物件の所有権を保持したまま管理業務を委託するものです。賃貸借契約はオーナーと入居者の間で締結されます。サブリース型は、管理会社がオーナーから物件を借り上げ、管理会社が入居者に転貸するものです。この場合、入居者との賃貸借契約は管理会社が締結します。

管理委託契約で委託できる業務は多岐にわたります。入居者募集、契約締結手続き、賃料の集金、クレーム対応、設備の修繕手配、退去時の立会いと精算などが一般的です。どの業務を委託するかは契約で定めます。委託範囲が広いほど管理会社に支払う費用は高くなりますが、オーナーの手間は軽減されます。

オーナーとしては、管理委託契約の内容が賃貸借契約に影響することを理解しておく必要があります。例えば、入居者からのクレーム対応を管理会社に委託している場合、管理会社の対応が遅れると入居者の不満につながります。管理会社の対応品質がオーナーの評判にも影響するため、信頼できる管理会社を選ぶことが重要です。

管理会社選びのポイント

管理会社を選ぶ際には、いくつかの重要なポイントがあります。まず、管理実績と評判を確認しましょう。管理している物件数や入居率、オーナーからの評価などが参考になります。地域に密着した管理会社は、地元の不動産市場に精通しており、効果的な入居者募集が期待できます。

管理費用と提供されるサービス内容のバランスも重要です。管理費用は一般的に賃料の5%前後とされていますが、会社によって異なります。安さだけで選ぶと、サービス品質に不満が生じることもあります。契約前に具体的なサービス内容を確認し、費用対効果を検討することをお勧めします。

報告体制とコミュニケーションの質も確認すべきポイントです。物件の状況や入居者の動向について、定期的に報告してくれる管理会社を選びましょう。問い合わせへのレスポンスの速さや、担当者の知識・対応力も重要です。実際に問い合わせをしてみて、対応を確認するのも一つの方法です。

管理会社を変更したい場合、現在の管理委託契約の内容を確認する必要があります。解約予告期間や違約金の規定がある場合があります。また、入居者への通知や新しい管理会社への引継ぎも必要です。変更に伴う手続きは煩雑になることもありますが、管理品質への不満を放置するよりは、早めに改善を図ることが賃貸経営にとってプラスになります。

 

まとめ

この記事では、賃貸借契約について、定義から契約の種類、締結の流れ、契約書のチェックポイント、トラブル対処法、管理会社との関係まで幅広く解説しました。

賃貸借契約は民法と借地借家法に基づいて規律され、オーナーと入居者双方の権利義務を定める重要な契約です。普通借家契約と定期借家契約という2つの形態があり、それぞれ更新や解約の条件が異なります。物件の運用方針に応じて適切な契約形態を選ぶことが、安定した賃貸経営につながります。

契約書では、契約期間、賃料、敷金、解約条件、原状回復の範囲などを確認することが重要です。2020年の民法改正により、敷金や原状回復に関するルールが明文化され、連帯保証人の極度額設定が義務化されました。これらの変更点を踏まえて契約書を見直すことをお勧めします。

原状回復費用や敷金精算に関するトラブルは多く発生していますが、国土交通省のガイドラインに基づいた適切な対応と、入居時の状態記録によって未然に防ぐことができます。管理会社との良好な関係を構築することも、トラブル防止と効率的な賃貸経営に役立ちます。

賃貸借契約の基礎知識を身につけることで、管理会社や入居者との交渉において自信を持って判断できるようになります。この記事で得た知識を活かし、安心で安定した賃貸経営を実現してください。契約内容に不明点がある場合は、管理会社や法律の専門家に相談することをお勧めします。