賃貸経営を行うオーナーにとって、家賃滞納はキャッシュフローに直接影響する重大な問題です。一方で、家賃を回収しようとするあまり、誤った方法で督促してしまうと、今度はオーナー側が法律違反を問われ、大きなトラブルに発展するおそれもあります。
この記事では、家賃滞納が発生したときに、法律の範囲内で適切かつ効果的に家賃を回収するための手順と、絶対に避けるべき違法な取り立て行為について、賃貸オーナーの視点からわかりやすく解説します。この記事を読めば、オーナー自身が取るべき行動の流れがイメージでき、余計な不安を抱えずに滞納問題の対応に臨めるようになるはずです。
この記事でわかること
この記事では、賃貸オーナーが直面しやすい家賃滞納トラブルについて、原因の整理から適法な督促の進め方、やってはいけないNG行為、そして最終的な法的手続きまでを一通り確認できるように構成しています。
電話や口頭での初期対応、書面による督促状、内容証明郵便の活用、連帯保証人への請求といった段階的なステップに加え、支払督促や明渡訴訟など、裁判所を通じて回収・明け渡しを求める方法についても触れます。また、弁護士・保証会社・法テラス・管理会社など、状況に応じて頼りになる相談先の特徴も紹介します。
これらを押さえておくことで、家賃滞納というストレスの大きい状況でも、感情的にならずに冷静な判断をしやすくなり、安定した賃貸経営を続けるための基礎知識が身につきます。
家賃滞納の取り立て基本知識
家賃滞納への対応を始める前に、まずは「なぜ滞納が起きるのか」「オーナーとしてどこまでが許されるのか」という基本を押さえておくことが大切です。ここを理解していないと、必要以上に厳しく対応して関係をこじらせたり、逆に対応が遅れて被害を広げてしまったりしかねません。
この章では、「家賃滞納が発生する背景」「取り立てと督促の違い」「管理会社に任せきりにすることのリスク」について整理します。
家賃滞納が発生する背景
家賃滞納の原因は、単に「お金がない」という事情だけではありません。ポイントは、理由が一つではなく、ケースごとに違うということです。
例えば、失業・病気・収入減などのやむを得ない事情のほか、「給与日の勘違い」「口座の残高不足に気づかなかった」といった、一時的な行き違いやうっかりミスが理由になることもあります。また、離婚・家族トラブル・転職など、生活環境の変化が支払いに影響しているケースも少なくありません。
そのため、最初の連絡から頭ごなしに責めるのではなく、「ご事情をお伺いしながら、支払いのめどを一緒に確認する」というスタンスで臨むことが、円満な解決への近道になります。
取り立てと督促の違い
家賃滞納への対応を考えるとき、「取り立て」と「督促」という言葉が混同されがちですが、イメージしておくべき線引きがあります。
一般的に、オーナーが行うべきなのはあくまで「適法な督促」です。 ここでいう「督促」とは、支払いを促す連絡や通知など、常識的な範囲で行う行為を指します。一方、「取り立て」という言葉には、怒鳴り込みや執拗な電話、生活を脅かすような圧力といった、強引な行為のイメージが伴います。
法律上、明確な定義があるわけではありませんが、裁判などでは社会通念上「行き過ぎ」と見なされるかどうかが判断基準になります。丁寧な文面の手紙や電話で支払いをお願いするのは「督促」にあたりますが、大声で怒鳴りつけたり、何度もドアを叩き続けるような行為は、「違法な取り立て」と評価される可能性が高い行為です。
オーナーとしては、「支払いをお願いすること」と「相手の生活を追い詰めること」の境界線を意識しながら、冷静に対応することが求められます。
管理会社に任せきりのリスク
家賃の督促業務は、管理会社に委託しているオーナーも多いと思います。 ただし、「全部管理会社に任せているから大丈夫」と完全にお任せにしてしまうことには注意が必要です。
管理会社によっては、電話連絡だけで書面の督促を行っていなかったり、入居者との関係悪化を恐れて踏み込んだ対応を避けたりするケースもあります。 契約内容によっては、内容証明郵便の送付や法的手続きのサポートがオプション扱いになっていることもあり、その結果、対応が後手に回って滞納期間が長期化してしまうこともあります。
こうした事態を防ぐためには、定期的に管理会社へ進捗を確認し、「いつ・どのような対応を行ったか」を把握しておくことが重要です。必要に応じて、「次は督促状を郵送してください」「内容証明の準備までお願いしたいです」など、オーナー側から具体的な指示を出すことで、対応の遅れを防ぎやすくなります。
適法な家賃取り立て方法
家賃滞納が発生した際、オーナーがまず意識すべきなのは、感情的にならずに決まった手順を淡々と進めることです。適法な督促は、一気に強い対応を取るのではなく、段階的にプレッシャーを高めていくのが基本です。
ここでは、初期対応である電話連絡から、督促状・内容証明郵便・連帯保証人への請求といった具体的なステップを解説します。
電話・口頭による督促
家賃の入金が確認できなかった場合、最初のステップは電話や口頭での確認です。この段階の目的は、「支払いが遅れている事実を穏やかに伝え、事情を確認すること」です。
家賃滞納の一部には、「単純な振込忘れ」「口座残高の一時的な不足」など、悪意のない理由も少なくありません。そのため、初回の連絡では、 「〇月分のお家賃ですが、本日時点でご入金が確認できておりませんでしたので、念のためご連絡いたしました。何かお手違いなどございませんでしょうか?」といった事務的で丁寧な言い回しを心がけるとよいでしょう。
このとき、「いつまでに支払えるか」という具体的な期日を確認できたら、その内容と日時をメモに残しておきます。 こうした記録は、万が一トラブルが長期化した場合にも、オーナーを守る重要な証拠になります。
督促状の送付
電話に出てもらえない、約束した支払期日が守られない、といった場合は、次の段階として書面による督促状を送付します。
督促状は、「滞納の事実」と「支払義務があること」を正式に通知し、記録として残すことが目的です。口頭でのやり取りだけだと「言った・言わない」の争いになりやすいため、書面で残しておくことが重要です。この段階では、まず普通郵便で送る方法が一般的です。
督促状には、
- ① 物件名・部屋番号
- ② 滞納している家賃の対象月と金額
- ③ 支払いをお願いする期限(日付)
- ④ 振込先口座情報
- ⑤ 大家・管理会社の連絡先
などを明記します。 文面は「家賃滞納に関するご案内」など、冷静で事務的なトーンを意識し、「至急お支払いください」「法的措置をとります」といった強い表現は、まだこの段階では控えておくとよいでしょう。
内容証明郵便による催告
督促状を送付しても反応がない場合、次の手段として内容証明郵便の送付を検討します。
内容証明郵便とは、「いつ・誰から誰に・どのような内容の文書を送ったか」を郵便局が証明してくれる制度です。後々、裁判になったときに「確かに支払いを求める通知を送った」という強力な証拠になります。
文面には、これまでの督促の経緯を簡潔に記載したうえで、「本書面到着後〇日以内に、滞納家賃合計〇〇円をお支払いください」「期限までにお支払いがない場合は、賃貸借契約の解除および法的手続きの検討を進めざるを得ません」といった内容を記載します。
この通知によって、オーナーが本気であることが相手にも伝わり、支払いのめどについて連絡をもらえるきっかけになることも多くあります。配達証明を付けておけば、相手が受け取った日付も確認できます。
連帯保証人への請求
賃借人本人からの支払いが見込めない、連絡が取れないといった場合は、連帯保証人への請求も有効な選択肢です。
連帯保証人は、法律上、賃借人と同じ立場で支払い義務を負っており、オーナーは本人の支払い状況にかかわらず、連帯保証人に対して直接請求することができます。
まずは電話で連絡を取り、滞納が発生している事実と現在の状況を説明します。そのうえで、正式な請求書を郵送し、滞納分の支払いについて協力を依頼します。多くの場合、連帯保証人は親族など本人と近い関係にあるため、この連絡をきっかけに本人が支払いに動くことも少なくありません。
なお、現在の賃貸借契約では、連帯保証人が負う可能性のある上限額(極度額)を契約書に明記することが一般的になっています。請求する際は、契約書の内容も合わせて確認しておきましょう。
違法な取り立て行為
家賃を何とか回収したいという焦りから、つい強い言動に出てしまいたくなることもあるかもしれません。しかし、一線を越えた行為をしてしまうと、今度はオーナー側が法的責任を問われる立場になってしまいます。
ここでは、絶対に避けるべき代表的なNG行為を4つに分けて解説します。
深夜・早朝の督促行為
督促を行う時間帯には細心の注意が必要です。常識的な生活時間帯を外れた深夜や早朝の電話・訪問は、相手の生活の平穏を害する行為と受け取られやすく、違法な取り立てと判断されるおそれがあります。
法律によって「何時から何時までは絶対に禁止」と決められているわけではありませんが、一般的には夜遅い時間帯や早朝の連絡は避け、日中の常識的な時間帯に行うのが安全です。一度の電話で出なかったからといって、短時間に何度も繰り返し電話をかけ続けるような行為も控えましょう。
勤務先への連絡
本人と連絡が取れないからといって、安易に勤務先へ電話をかけることは非常にリスクが高い行為です。
勤務先に対して、「家賃の件で大家です」などと用件を伝えてしまうと、滞納している事実を第三者に明かすことになり、プライバシーの侵害と受け取られる可能性があります。
どうしても勤務先に連絡せざるを得ない場合でも、用件を具体的に伝えず、本人につないでもらうための最低限の情報にとどめるなど、細心の配慮が必要です。基本的には、勤務先への連絡は「最後の手段」と考え、他の方法での連絡が全て尽きた後の検討事項とするのが望ましいでしょう。
貼り紙や第三者への公開
感情的になって、「〇〇号室 家賃滞納中」などと書いた貼り紙を玄関や掲示板に出したり、近隣住民に滞納の事実を言いふらしたりするのは、絶対に避けなければならない行為です。
こうした行為は、名誉毀損やプライバシー侵害にあたる可能性が高く、民事上の損害賠償請求だけでなく、刑事責任を問われるおそれもあります。
家賃滞納の事実は、あくまでオーナー・入居者・連帯保証人の間の問題であり、第三者に知らせる必要はありません。督促に関するやり取りは、本人にのみ伝わる手段(電話・手紙・面談など)に限定し、第三者の目や耳に入らないよう配慮しましょう。
無断入室や鍵交換
滞納が続くと、「部屋の様子を確認したい」「もう出て行ってほしい」と考えたくなるかもしれませんが、合鍵で勝手に部屋に入ることや、入居者の承諾なく鍵を交換することは明確にNGです。
たとえ所有者であっても、入居者の同意なしに室内へ立ち入ると、住居侵入などの問題になる可能性があります。また、鍵を交換して入居者を締め出すことは、法律上認められていない「自力救済」にあたり、違法と判断されるリスクが非常に高い行為です。
さらに、室内の家具や家電などの残置物をオーナー判断で処分してしまうと、後から損害賠償を請求されることもあります。部屋の明け渡しを求める場合は、裁判を通じて明渡しの判決を得てから、裁判所の執行官による強制執行という手順を踏む必要があります。
家賃滞納回収の具体的手順
ここからは、家賃滞納が発生してから解決に至るまでの流れを、ステップごとに整理していきます。重要なのは、その場の思いつきではなく、決まった手順に沿って対応することです。
初期督促から内容証明まで
家賃滞納対応の初動は、次のように段階を踏んで進めるのが一般的です。
まずは、支払期日を数日過ぎた段階で電話連絡を行い、入金が確認できないことを事務的に伝え、事情と支払い予定日を確認します。この時点で支払いがなされれば、一旦は解決です。
電話に出ない、約束した期日を守ってもらえない場合には、普通郵便で督促状を送付し、書面として記録を残します。滞納が続くようであれば、連帯保証人へ連絡を入れるとともに、内容証明郵便で「このまま支払いがなければ契約解除を検討する」旨を正式に伝えます。
こうしたステップを踏むことで、関係を必要以上に悪化させずにプレッシャーを高めつつ、「ここまで対応した」という証拠も同時に蓄積していくことができます。
支払督促手続き
内容証明郵便を送っても支払いがない場合、裁判所を通じた支払督促という手続きの利用を検討できます。
支払督促は、簡易裁判所に対して書面で申し立てを行い、相手に「支払いを命じる書面」を送ってもらう制度です。通常の訴訟と比べて手続きが簡易で、原則として裁判所へ出頭する必要もありません。
相手方が支払督促に異議を出さなければ、強制執行が可能な状態まで手続きを進めることができます。一方で、相手が異議を申し立てた場合には、通常の訴訟に移行する点もあらかじめ理解しておきましょう。
明渡訴訟の流れ
滞納が長期化し、もはや信頼関係の回復が難しいと判断される場合には、建物明渡請求訴訟の提起を検討する段階に入ります。これは、家賃の支払いだけでなく、物件の明け渡しそのものを裁判所に求める手続きです。
訴訟では、これまでの督促の記録や契約書、滞納状況などを証拠として提出し、裁判所の判断を仰ぎます。手続きは専門的になるため、多くの場合は弁護士に依頼して進めることになります。
明渡しの判決が確定すれば、オーナーは法的に部屋の明け渡しを請求できる立場になり、次のステップである強制執行の申し立てへ進むことが可能になります。
強制執行による回収
明渡訴訟で勝訴しても、入居者が自主的に退去しないケースもあります。 その場合に、裁判所の力を借りて部屋を空けてもらう手続きが強制執行です。
オーナーが裁判所に申し立てを行うと、裁判所の執行官が現地に出向き、退去の催告や断行日の告知を行います。告知後も退去がなされない場合、断行日には執行官や専門業者が立ち会いのもと、入居者を退去させ、室内の動産を運び出します。
強制執行には一定の費用と時間がかかりますが、自力での締め出しや荷物処分が認められていない以上、法的に物件を取り戻すための正規のルートだといえます。
家賃滞納どこに相談すべきか
家賃滞納の問題を、オーナーだけで全て抱え込む必要はありません。状況や段階に応じて、専門家や専門機関に相談することも重要な選択肢です。
ここでは、弁護士・保証会社・法テラス・専門管理会社といった相談先の特徴を簡単に整理します。
弁護士への相談
内容証明郵便の作成、支払督促、明渡訴訟、強制執行といった法的手続きが視野に入ってきた段階では、弁護士への相談が心強い味方になります。
弁護士に依頼することで、違法な取り立てに当たらないよう配慮しながら、オーナーの代理人として交渉や手続きを進めてもらうことができます。法律事務所のホームページなどで「不動産問題」「家賃滞納」などを取り扱っている事務所を探し、まずは相談してみるとよいでしょう。
保証会社の活用
家賃滞納への最も効果的な対策は、「起きてから対応する」のではなく、「起きたときにオーナーが困らない仕組みを作っておく」ことです。その一つが家賃保証会社の利用です。
保証会社を利用すると、入居者が家賃を滞納した場合でも、保証会社がオーナーに家賃を立て替え払いしてくれるため、毎月の収入が大きく乱れにくくなります。さらに、滞納が発生したあとの督促業務も保証会社が担当するため、オーナー自身の手間や心理的負担を大きく軽減できます。
新規入居時の審査の段階から保証会社の利用を必須条件とすることで、家賃滞納リスクに備える賃貸経営がしやすくなります。
法テラスでの無料相談
「弁護士に相談したいけれど、費用面が不安」「誰に相談すればいいかわからない」という場合には、法テラス(日本司法支援センター)の活用も検討できます。
法テラスでは、一定の条件を満たせば、無料で法律相談を受けられる制度や、弁護士費用の立替え制度などが用意されています。家賃滞納トラブルも相談の対象となるため、まずは現状を整理し、今後どのような手続きが取り得るのかアドバイスを受けることができます。
専門管理会社への依頼
現在、自主管理を行っているオーナーや、今の管理会社の滞納対応に不安があるオーナーは、家賃管理や滞納対応に強い専門管理会社へ委託・変更することも選択肢の一つです。
滞納の初期督促から、必要に応じた法的手続きのサポートまでを含めたサービスを提供している管理会社もあり、オーナーの負担を大きく減らすことができます。
管理会社を選ぶ際は、管理料の安さだけではなく、「滞納が発生した場合にどこまで対応してくれるのか」「保証サービスはあるのか」といった点まで含めて比較検討することが大切です。
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まとめ
家賃滞納は、賃貸経営において避けて通れないリスクの一つですが、正しい知識と手順を押さえておけば、落ち着いて対応することができます。
大切なのは、「早めの対応」「段階的な督促」「法律を守ること」の3つです。 支払いが遅れた段階で穏やかに連絡を取り、状況を確認し、それでも解決しない場合は、督促状・内容証明郵便・連帯保証人への請求といったステップを、記録を残しながら進めていきます。
一方で、深夜・早朝の督促、勤務先への安易な連絡、貼り紙や噂話による公開、無断入室や鍵交換といった行為は、オーナー側が責任を問われる危険な対応です。どれだけ滞納に困っていても、これらの行為に踏み込むべきではありません。
問題が長期化しそうな場合や、法的手続きが必要になりそうな場合は、一人で抱え込まず、弁護士や専門の管理会社などプロに相談することも重要です。そして、将来のリスクを抑えるためには、保証会社の利用など、契約時点での備えを整えておくことが何よりの予防策になります。
本記事の内容を、いざというときの「対応マニュアル」として役立てていただき、安定した賃貸経営の一助としていただければ幸いです。