賃貸物件のオーナーにとって、「立ち退き」は避けては通れない経営課題の一つです。建物の老朽化や再開発、自己使用の必要性など、様々な理由で入居者に退去をお願いする場面が訪れ得ます。ただし、立ち退きは法律知識と交渉ノウハウが求められるデリケートなテーマであり、手順や説明を誤るとトラブルに発展しかねません。
本記事は、賃貸経営を行うオーナー様や管理会社担当者様に向けて、法的な枠組み(正当事由・通知期限)、実務手順(通知書作成・交渉の進め方)、立ち退き料の考え方までを体系的に整理した“実務ガイド”です。
この記事でわかること
この記事を最後まで読むと、賃貸立ち退きに関する主要な疑問を整理でき、手続きを自信をもって進められるようになります。
具体的には、まず法律で求められる「正当事由」の考え方を事例別に解説。次に、有効な通知の方法と期限、通知書の作成ポイント、立ち退き料の相場観と算定の考え方を学びます。さらに、交渉のステップ、トラブル予防策、管理会社・専門家の活用ポイントまで、立ち退きプロセス全体を一望できる構成です。
賃貸立ち退きの基本概要
立ち退き交渉を始める前に、オーナーと入居者の権利関係と、関連法(借地借家法)の基本を押さえることが不可欠です。日本の法制度は入居者の居住の安定を重視しているため、法の要件を満たす準備と丁寧なコミュニケーションが、円満解決の前提になります。
賃貸立ち退きとは
賃貸立ち退きとは、オーナー(貸主)側の事情により、現在の入居者(借主)との賃貸借契約を終了させ、物件の明け渡しを求めることです。
入居者自身の希望による「退去」や、家賃滞納等の契約違反を理由とする解除とは区別されます。オーナー都合が起点となるため、正当事由の有無や通知方法・期限、補償(立ち退き料や代替物件の提示等)が重要になります。
理由としては、建物の老朽化や安全性の問題、再開発・建て替え、自己使用などが代表例。いずれの場合も、入居者には住み替え負担が生じるため、法令遵守と誠実な対話で合意形成を図ることが、スムーズな明け渡しの鍵です。
借地借家法による入居者保護
日本の賃貸借では借地借家法が中核で、入居者(借主)の権利保護が手厚いのが特徴です。普通借家契約では、契約満了のみでは直ちに退去させられず、更新拒絶や期間中の解約申入れには**「正当事由」が必要です。
ここでのポイントは、正当事由が単独要因の有無だけで判断されるのではなく、諸事情を総合的に考慮して判断されること。一般に、建物の老朽化や再開発の必要性、自己使用の必要性、入居期間や家族構成、代替物件の用意、金銭的補完(立ち退き料の申出)などが総合評価されます。
この原則を踏まえ、法に沿った手順と入居者配慮(説明・猶予・代替提案・補償)を組み合わせる計画設計が不可欠です。
オーナーと入居者の権利関係
賃貸借は、オーナーの所有権と入居者の借家権(居住権)が交差する関係です。賃貸借契約により、オーナーの使用収益権の一部が入居者に移転しており、入居者は対価(家賃)と引き換えに居住継続の権利を得ます。
立ち退きはこの権利が衝突する局面であるため、オーナーは所有権の行使だけでなく、入居者の生活基盤への配慮を示す必要があります。実務では、十分な根拠資料の準備(診断書・計画書等)、通知期限の遵守、適切な補償の検討、代替物件の具体提案などを揃え、合意書で明文化することが、紛争予防に直結します。
立ち退きに必要な正当事由
オーナーが入居者に立ち退きを求めるためには、借地借家法第28条で定められた「正当事由」が必要です。
この「正当事由」は単なる理由の提示ではなく、客観的根拠・必要性・入居者への配慮の程度などを総合的に判断して成立するものです。ここでは、代表的な4つのケースを紹介します。
建物の老朽化・安全上の問題
最も認められやすいのが、建物の老朽化や安全性の欠如を理由とするケースです。ただし、「古くなった」という主観的判断では不十分で、耐震診断書・専門家の報告書など客観的な証拠が求められます。
例として、旧耐震基準(1981年6月以前)で建築され、専門機関から「倒壊の危険性あり」と指摘された場合は、正当事由として非常に強力です。構造部の劣化・雨漏り・シロアリ被害など、居住の安全に関わる不具合を具体的に証明できれば、入居者にも説明が通りやすくなります。
再開発・建て替え計画
都市計画・区画整理などの公的再開発事業に伴う立ち退きは、社会的合理性が高く、正当事由として認められやすい傾向にあります。
一方、オーナー個人による建て替えでは、「老朽化や防災性の改善」など社会的・構造的な必要性を示すことが求められます。「より高収益のマンションにしたい」などの経済的理由だけでは認められにくいため、構造上の不具合や修繕費負担の大きさなど、複数の要因を組み合わせて説明することが重要です。
設計図・資金計画・工期などの具体的資料があれば、正当事由の主張に説得力が増します。
オーナーの自己使用
オーナー自身や親族がその物件に居住する必要性がある場合も、正当事由として考慮されます。
ただし、この「自己使用の必要性」は客観的で切実な事情である必要があります。「他に住む家がない」「高齢の親を介護するため」「現在の住居が療養に不適切」など、代替不可能な理由であるほど認められやすいです。
裁判では「他の物件を所有していないか」「経済的な事情」「家族構成」などを総合判断するため、なぜその物件でなければならないのかを具体的に説明することが求められます。
入居者の契約違反・家賃滞納
厳密にはオーナー都合の立ち退きとは異なりますが、入居者側に重大な契約違反がある場合は、契約解除によって明け渡しを求めることができます。
典型的なのは家賃滞納(概ね3か月以上が目安)ですが、これはあくまで一般的な判断基準で、事案ごとに個別判断されます。その他、無断転貸・ペット禁止違反・騒音や迷惑行為の常習なども、信頼関係の破壊と見なされる可能性があります。
ただし解除前には、内容証明で是正を求める催告を行い、改善の機会を与える必要があります。
立ち退き通知の方法と手順
正当事由が成立していても、通知の方法やタイミングが誤っていると立ち退きが無効になるおそれがあります。この章では、通知の法的要件と文書作成の実務ポイントを解説します。
通知期間の法的要件
借地借家法では、オーナーが更新を拒絶する場合、契約満了日の1年前から6か月前までに入居者へ通知しなければならないと定められています。
この期間を外すと、契約は自動的に法定更新され、退去を求めることができません。
例:3月末満了の場合 → 前年4月〜当年9月末までに通知。
また、期間の定めがない契約では、オーナーが解約を申し入れた日から6か月経過で契約が終了します。いずれの場合も、期間短縮の特約は無効であるため、法定期間を厳守することが大切です。
出典: e-Gov|法令検索 借地借家法
通知書の作成ポイント
通知書は、後々の証拠となる重要書類です。
記載の基本構成は次の通りです.
- 物件の所在地・部屋番号・契約者氏名の明記
- 契約更新を行わない旨、または解約を申し入れる旨の明示
- 明け渡しを求める具体的な日付の記載
- 正当事由の説明(老朽化・再開発・自己使用などを具体的事実と日付で示す)
- 連絡窓口・相談受付先の記載
文面は感情的な表現を避け、客観的かつ誠意のある事務文書にまとめましょう。
曖昧な「当方の都合により」ではなく、「令和○年○月○日に実施した耐震診断の結果、倒壊リスクが高いと判定されたため」など、事実に基づく説明が効果的です。
入居者との関係維持を重視する場合は、今後の話し合いの場を設けたい旨も添えるとスムーズです。
内容証明郵便による送付方法
通知書を送る際は、内容証明郵便+配達証明を利用するのが最も確実です。
内容証明郵便とは、「いつ・誰が・誰に・どのような内容の文書を送ったか」を日本郵便が公式に証明する制度で、裁判などの法的手続きでも証拠として認められます。
送付手順は以下の通りです。
- 同一内容の文書を3通作成(郵便局保管用・差出人保管用・送付用)
- 窓口で内容証明として提出し、控えを受け取る
- 可能であれば電子内容証明(e内容証明)を活用し、オンラインで24時間発送
また「配達証明」を付けることで、相手が受け取った日付が郵便局から通知され、意思表示の到達日を正式に立証できます。
これにより「受け取っていない」「通知が遅かった」といったトラブルを防げます。
将来的に裁判や調停になった際、この証拠が非常に重要になるため、立ち退き通知は必ず書面で、証拠性の高い形で行いましょう。
立ち退き料の相場と算定基準
立ち退き料は、法律上必ず支払わなければならないものではありませんが、正当事由を補完するための金銭給付として実務上ほぼ不可欠な存在です。
金額に明確な法的基準はありませんが、相場や算定の考え方を理解しておくことで、トラブルを防ぎつつ円満な合意形成を図ることができます。
居住用物件の立ち退き料相場
居住用賃貸では、一般的に家賃の6か月〜12か月分程度がひとつの目安として知られています。とはいえ、これはあくまで参考値であり、入居期間の長さや家族構成、高齢者・療養中の入居者がいる場合など、転居の負担が大きいほど金額は上がる傾向があります。
この「家賃の◯か月分」という目安には、新居探しにかかる期間の家賃補填や引っ越し費用、そして精神的負担を和らげるための金銭的補完といった意味合いが含まれています。
大切なのは、金額そのものよりも根拠を明確に説明できるかどうかです。実際に引っ越し見積書や新居の初期費用、家賃差額などを算出した上で提示すれば、入居者の納得を得やすくなります。
店舗・事務所の立ち退き料相場
事業用物件(店舗・事務所)の場合は、居住用よりも高額になるケースが多く、家賃の1年〜3年分程度が目安とされます。これは、営業補償を含むためです。業種や立地、営業年数によっても金額は大きく異なり、地域密着型の店舗や長年営業している事業者ほど補償額が増える傾向にあります。
立ち退き料には、新店舗の内装工事や設備移設費、看板や広告物の再設置費、顧客告知のための広告宣伝費、そして移転期間中の休業損失(逸失利益)などが含まれることが一般的です。特に移転後の売上回復に時間がかかる業種では、数年分の営業補償が支払われるケースもあります。こうした事業用の立ち退き交渉は個別性が高いため、不動産鑑定士や弁護士への相談を検討するのが安全です。
立ち退き料の内訳と計算方法
立ち退き料の算定は、大きく分けて移転に伴う実費補償と正当事由を補う金銭的給付(迷惑料・補完給付)の2つの観点から成り立ちます。
前者には、引っ越し費用、新居契約時の初期費用(敷金・礼金・仲介手数料・保証料など)、家賃差額補填(新旧家賃の差を1〜2年分)といった実費が含まれます。後者は、長期入居者への生活再建支援や、オーナー都合による急な立ち退きに伴う精神的負担を和らげる意味合いがあります。
実務ではこれらの要素を積み上げて総額を算出し、見積もりや補償内容を明文化して提示することで、入居者の理解を得やすくなります。なお、支払った立ち退き料は税務上、必要経費として処理できる場合もあるため、支払い時には領収書や合意書の控えを必ず保管しておきましょう。
立ち退き料が不要になるケース
すべての立ち退きで立ち退き料が必要になるわけではありません。
立ち退き料が不要とされる代表的なケースは、まず入居者側の契約違反が明確な場合です。たとえば、長期間にわたる家賃滞納(概ね3か月以上が目安)、無断転貸、禁止されている用途での使用、近隣への迷惑行為などが挙げられます。これらの行為は「信頼関係の破壊」に該当し、契約解除の正当な理由となるため、通常は立ち退き料の支払い義務は発生しません。
また、定期借家契約の満了による退去も同様です。定期借家は契約で期間満了時に終了することが明確に定められているため、契約期間が終了すれば、立ち退き料を支払う必要は基本的にありません。ただし、更新や再契約を行う際に借地借家法第38条に基づく書面の交付と説明が適切に行われていない場合、トラブルに発展するおそれがあります。
このように、立ち退き料の要否は「退去理由」と「契約形態」によって異なるため、契約書の内容や過去のやり取りを確認し、法的根拠を整理した上で判断することが重要です。
立ち退き交渉の進め方
定期借家契約では、契約期間満了により自動的に終了することが原則です。そのため、通常の普通借家のように「正当事由」や「立ち退き料の支払い」が必要になることはありません。
ただし、定期借家契約が有効と認められるためには、契約時に「定期借家契約であること」を明示した書面の交付と説明が必須条件です。これが口頭だけで済まされていたり、書面の内容が不十分だった場合には、普通借家として扱われる可能性があるため注意が必要です。
また、入居者に再契約を打診する場合には、更新契約ではなく「再契約」という形をとり、新たに契約書を作成することが望まれます。満了日が近づいたら早めに通知を行い、トラブルを防ぐことが大切です。
交渉前の準備事項
立ち退き交渉は、法的な正当性だけでなく、コミュニケーションの丁寧さが成功を左右します。一般的な流れは次のようになります。
まず、オーナーは立ち退きの必要性を明確にし、法的要件を確認したうえで通知書を作成・送付します。その後、入居者との面談や説明の場を設け、退去理由や今後のスケジュールを丁寧に説明します。初回の段階では、あくまで「相談」というスタンスで臨むのが良いでしょう。
次に、入居者が不安を感じやすい住み替え先・引っ越し費用・立ち退き料の提示を具体的に行います。このとき、立ち退き料の金額よりも、どのような根拠で提示しているかを明確に伝えることが重要です。
合意形成が進んだ段階で、退去日や補償内容を調整し、合意書を取り交わして最終確定します。交渉が長期化する場合や入居者が応じない場合は、管理会社や弁護士を通じて第三者的に交渉を進めることも有効です。
入居者との話し合いのポイント
立ち退き交渉がまとまったら、口頭合意のままにせず、必ず合意書(立ち退き契約書)を作成します。後日のトラブルを防ぐため、内容はできるだけ具体的に記載しましょう。
合意書に盛り込むべき主な項目は以下の通りです。
- ◼️ 契約当事者の氏名・住所
- ◼️ 対象物件の所在地・部屋番号
- ◼️ 明け渡しの期日
- ◼️ 立ち退き料の金額と支払い方法・支払期日
- ◼️ 引っ越しや清算に関する取り決め(敷金の扱いなど)
- ◼️ 双方が他に異議を申し立てない旨の確認条項
立ち退き料を分割で支払う場合は、各回の支払日と方法を明示しておくとトラブル防止になります。また、合意書には押印または署名捺印を行い、各自が原本を1通ずつ保管します。
最後に、退去当日には現地で立会い確認(設備・鍵の返却など)を行い、清算が完了していることをその場で記録します。これらを丁寧に進めることで、トラブルを最小限に抑え、円満な契約終了が実現できます。
代替物件の提案方法
立ち退き交渉において、金銭の提示と並行して代替物件を提案することは非常に効果的です。入居者にとって、新しい住まいを探す手間や時間は大きな負担であり、とくに土地勘のない地域では不安が大きくなります。オーナーが現在の住居と同等以上の条件(家賃、広さ、駅からの距離、周辺環境など)を満たす物件を複数具体的に提案できれば、交渉は格段にスムーズになります。
提案の際は、単に物件リストを渡すだけでなく、可能であれば内見への同行や物件のメリット・デメリットの説明など、親身なサポートを心がけるとよいでしょう。
さらに、「こちらの物件に決めていただける場合は、契約時の初期費用(敷金・礼金・仲介手数料など)を当方で負担します」といった補助を申し出ることで、入居者の金銭的な不安を軽減できます。
こうしたサポートを行うことは、単に金銭で解決するよりも誠意が伝わりやすく、結果的に立ち退き料を抑制できる場合もあるのが実務上のメリットです。入居者の安心感を高め、円満な合意につなげるうえでも、代替物件の提案は非常に有効な交渉手段といえるでしょう。
合意書作成と退去手続き
長い交渉の末、立ち退き条件について入居者と合意に至ったら、口約束のままにせず、必ず合意書(立ち退き契約書)を取り交わしましょう。文書化は、後の誤解や紛争を防ぐための最も重要な手続きです。
合意書には、物件の特定情報(所在地・部屋番号など)、明け渡し予定日、立ち退き料の金額と支払い方法・支払期日、原状回復義務や敷金精算の取り決め、そして代替物件の初期費用負担など、双方が合意した内容を明確に記載します。内容を確認したうえで署名・捺印を行い、各自が原本を保管しておくと安心です。
立ち退き料を分割で支払う場合は、支払い時期や方法をあらかじめ定めておくことがトラブル防止につながります。明け渡し当日は現地で設備の確認や鍵の返還、清算事項の最終確認を行い、合意書に基づいて立ち退き料を支払えば手続きは完了です。これらの工程を丁寧に進めることで、立ち退き後も良好な関係を保ちつつ、円満な契約終了を実現できます。
立ち退きトラブルの回避策
どれだけ慎重に進めても、立ち退き交渉には些細な認識のずれや感情的なもつれから深刻なトラブルへ発展するリスクが常につきまといます。ここでは、実際に起こりやすいトラブル事例と、その未然防止策、さらに専門家へ相談すべきタイミングを解説します。事前にリスクを把握し、計画的に備えることが重要です。
よくあるトラブル事例
立ち退き交渉で最も多いのは、立ち退き料の金額をめぐる対立です。オーナーは費用を抑えたいと考え、入居者はより多くの補償を求めるため、話し合いが長期化してしまうことがあります。
次に多いのが、通知期間の不足や正当事由の不備といった手続き上の問題です。これにより「立ち退き要求自体が無効だ」と主張されるケースも少なくありません。
また、交渉の過程で感情的な衝突が起き、嫌がらせや風評トラブルに発展することもあります。さらに、一度は退去に合意したにもかかわらず、期日になっても居座り続ける悪質なケースも存在します。
国民生活センターの2024年公表データによれば、賃貸物件の退去に関する相談件数は年間約1万件にのぼり、その内容は年々複雑化していると報告されています。
こうしたトラブルを他人事とせず、事前にどのようなリスクがあるのかを知り、対策を立てておくことが欠かせません。
法的リスクの把握と対策
立ち退き交渉がこじれて訴訟に発展すると、オーナー側の負担は大きくなります。裁判で「正当事由が認められない」と判断されれば、立ち退きは認められず、さらに入居者側から損害賠償を請求される可能性もあります。
訴訟が長期化すれば、その間の家賃収入が得られず、弁護士費用や再開発計画の遅延など、経済的損失にもつながります。
こうした法的リスクを防ぐには、まず正当事由の根拠を客観的な資料で裏付けることが重要です。耐震診断報告書や再開発計画書など、誰が見ても合理的と判断できる証拠を整備しましょう。
次に、通知期限の厳守と内容証明郵便による送付など、手続きを適正に進めること。さらに、交渉経緯や合意内容を必ず書面で残す習慣をつけておくことも大切です。
そして何より、少しでも不安を感じた段階で早めに専門家へ相談する姿勢が、リスク回避の最大のポイントになります。
専門家への相談タイミング
立ち退きに関する問題をオーナーだけで抱え込むのは危険です。適切なタイミングで弁護士などの専門家に相談することで、時間・費用の両面で早期解決につながることが多くあります。
目安としては、入居者との話し合いを2〜3回行っても進展がない場合や、明らかに意見が平行線になった段階で、一度専門家の意見を挟むとよいでしょう。さらに、入居者が弁護士を立ててきた、あるいは内容証明郵便で法的主張を送ってきた場合は、すぐにこちらも専門家を代理人として立てるべきです。
司法統計(2024年)によると、建物明け渡しに関する訴訟の平均審理期間は約10.5か月とされており、一度紛争化すると長期化する傾向があります。問題が深刻化する前に専門家が介入することで、交渉による解決の余地を残せる場合が多く、結果的にコストも抑えられます。近年は初回相談を無料で受け付ける法律事務所も多いため、早い段階で相談しておくのが得策です。
管理会社への立ち退き業務委託
ここまで見てきたように、立ち退き業務は法的な知識、交渉力、そして多大な時間と精神的な労力を要する複雑なプロセスです。自主管理で対応することに限界や不安を感じるオーナーにとって、専門知識を持つ管理会社に業務を委託することは非常に有効な選択肢となります。
ここでは、管理会社に依頼できる業務の範囲や費用、そして信頼できるパートナーを選ぶためのポイントについて解説します。
管理会社に依頼すべき業務範囲
立ち退き交渉に精通した管理会社へ委託することで、オーナーは煩雑な実務やストレスから大きく解放されます。一般的な委託範囲は広く、立ち退きの初期段階から最終的な明け渡しまで、ワンストップで対応してもらうことが可能です。
具体的には、まず「入居者への初期説明」「通知書の作成・送付」といった初動サポートがあります。法的に不備のない書類を用意し、適切な方法で通知を行うことで、トラブルの芽を早期に摘み取ります。
次に、最も重要な「入居者との交渉代行」。経験豊富な担当者が、オーナーに代わって冷静かつ論理的に交渉を進め、感情的な衝突を避けながら合意を目指します。さらに、代替物件の提案や立ち退き料の交渉、そして最終的な合意書の作成支援までカバー。オーナーは、判断が必要な重要場面だけに集中することができます。
委託費用と自主管理との比較
管理会社に立ち退き業務を委託する際の費用体系は、一般的に「着手金+成功報酬」が多く採用されています。成功報酬の目安は、合意した立ち退き料の10〜20%前後、または家賃の1〜2か月分程度が相場です。
一見高額に感じられるかもしれませんが、オーナーが自力で全て対応する場合、見えないコストが想像以上に大きくなります。慣れない交渉に時間を取られ、本業や他物件の管理に支障をきたすケースも少なくありません。さらに、交渉がこじれて訴訟に発展すれば、弁護士費用だけで数十万〜百万円単位の出費が発生します。
2023年の業界団体調査では、専門家が介入した立ち退き案件の平均解決期間は、自主管理に比べ約4か月短いという結果も出ています。時間と精神的負担を軽減し、法的リスクを最小限に抑えられる点を考えれば、委託費用は“スムーズな解決のための保険”と捉えることもできるでしょう。
法的リスクの把握と対策
立ち退き業務を安心して任せるには、信頼できるパートナー選びが不可欠です。最初に確認すべきは、立ち退き交渉に関する実績が豊富かどうかです。公式サイトなどで過去の解決事例や、立ち退き専門チームの有無をチェックしましょう。
次に、弁護士や司法書士など法律専門家との連携体制が整っているかも重要です。難航した際にスムーズに法的対応へ移行できる管理会社は信頼できます。
また、料金体系の明確さも必須ポイント。成功報酬の定義や発生条件が曖昧な会社は避け、契約前に見積もり内容を細かく確認しましょう。
最後に、担当者との相性も大切です。親身に相談に乗ってくれる姿勢や、説明の分かりやすさ、レスポンスの早さなど、実際に話してみて“信頼できるか”を判断しましょう。
丁寧に比較検討することで、長期的に安心して任せられるパートナーを見つけることができます。
まとめ
立ち退き交渉は、法的な正当性・誠実な姿勢・的確な手続きの3つがそろって初めて、円満に成立するデリケートなプロセスです。「通知の出し方」「立ち退き料の相場」「代替物件の提案方法」など、ひとつでも対応を誤れば、トラブルや訴訟に発展するリスクをはらんでいます。
そのため、まずは正当事由を明確にし、手続きの根拠を固めることが何より大切です。さらに、入居者の生活事情を尊重しながら交渉を進めることで、感情的な対立を避け、スムーズな合意形成につながります。
自主管理で対応するのが難しい場合は、立ち退きに強い管理会社や弁護士などの専門家に早めに相談することをおすすめします。専門家のサポートを受けることで、トラブルの芽を未然に防ぎ、時間・費用・精神的負担を大きく軽減できるからです。
法令遵守と誠意ある対応を心がければ、入居者・オーナー双方が納得できる形での契約終了が実現できます。トラブルを恐れず、正しい知識と準備をもって臨むことが、信頼される不動産オーナーへの第一歩です。